私は、よく保護者会などでこんなお話をしていました。
中学受験で一番いいのは、一生懸命がんばって、落ちること。
次が、一生懸命がんばって、合格すること。
次が、がんばらないで、落ちること。
最悪なのは、がんばらないで、合格すること。
もちろん受験するのですから、合格するのにこしたことはありません。けれどもやはりそれは努力によて培われたものであることが、一番子どものこれからの成長につながるものだと思います。一生懸命がんばったけれども、自分の努力で通じないことがあったということを、子どものうちから知るということも、これはこれで大変貴重な経験なのです。今の子どもたちは、とても恵まれています。したがって、いろいろなものを大人から与えられているでしょう。ですから、子どもがはじめて、自分の努力が足りなかったと感じることは、本当に大事なことなのです。
その一方で、こんなもので合格するのなら大したことはないと思い、中学入学後もついだらだらしてしまう子どももいます。しかしよくしたもので、そういう子どもたちは、また失敗することで、新たに学び、変わっていきます。
親としては失敗しないように先回りしたいと思うものですが、そうはうまくいかないものです。失敗したり、悩んだりして、子どもは成長するものですから、それはまたそれでよいことだと思う心構えをもつことが大切なのです。親が先回りして考えるよりは、そのときそのときでいっしょに支えてあげることが親としての役目ではないでしょうか。むしろ怖いのは、合格至上主義に陥ってしまい、子どものときにもっていたみずみずしさを台無しにしてしまうことです。子どもたちは、まだ小さいので、そういう価値観を簡単に植え付けられてしまいがちです。とにかく受かればいいんだろうといわれれば、それは違います。別に受かることが偉いことではないのです。そういう勘違いをしている子どもたちはたくさんいます。これは子どもたちが悪いのではありません。そういう考え方をさせた大人が悪いのです。私が「合格しても失敗する子」というのは、そういう子どもたちのことです。
中学受験は、まだこともたちが小さいうちの受験なので、親の関わる部分が多くなります。それはある意味仕方のなことですが、その分、受験がもつさまざまなデメリットにぶつかったときに、子どもたちを支えてあげることができます。子どもが大きくなって、そのデメリットにも耐えられるようになっていれば、何も問題はないのですが、子どもたちはまだ小学生ですから、自分だけでがんばるのは、なかなか大変です。
私は中学受験の塾で約20年間教えてきました、その間、たくさんの子どもたちを見てきましたが、一番大切にしてきたのは、合格させることではありませんでした。むしろ、いろいろなデメリットから子どもを守りながら、彼らがもっているみずみずしさをなるべく保ったまま、この受験を越えてほしかったのです。
この本では、そんなノウハウをなるべくわかりやすく説明しました。子どもたちは、まだまだこれから先にたくさんの未来を抱えています。その未来が輝くように、少しでも役に立てばと思います。